久しぶりに、こんな時間まで眠れない。
彼を起こさぬようにベッドを抜け出して、ベランダへ。
まだ暑さは夜まで到達していないみたい。
春の残り香を含んだ夜風が心地よい。
マッチを擦って、蚊取線香に火をつける。
気の早い蚊が飛び回っていて、気づかぬうちにぷっくりやられてしまうから。
ゆらゆらとくゆる煙を眺め、お酒の缶を開ける。
プシュッと小気味良い音
ぐびりと飲むと、爽やかに檸檬の香り。
静かな街は、まるで海底に沈んでいるみたい。
時折動く人の影を、上から眺める。
木々の揺れる音、規則的に点灯する信号機、ひんやり冷たい空気、ひとり眺める私…
お酒の缶が、わたしより先に汗を掻く。
なるべくゆっくり飲み干して、身体の隅々まで染み渡るのをじっと待つ。
まるで、水やりみたい。
真夜中の水やり。昔読んだ小説を思い出す。
ほんのりと明らむ空に気づき、夜に夏が来るのもあとすこしだなぁと思う。
夜明け前は、一番冷える。
蚊取線香が消えてるか確認して、するりとベッドに潜り込む。
布団に包まった千葉さんは、あたたかい。
冷えた爪先をくっつけて、体温を混ぜ合わせる。
ぬるくなる身体。
夜が明けるまで、あとすこし。
眠りにつくまで、あとすこし。